カバンの真実

カバンの真実

2018年5月18日 (金)

一澤信三郎帆布

Gaianoyoake


先日カンブリア宮殿に一澤信三郎帆布が出ていましたね。
懐かしく見ました。
あれから10年経ったのに信三郎さんがお元気そうで
何よりでした。

私がブログを始めた10年前の2008年(平成20年)、
ブログに何を書いたら良いのか分からなくて、
「カバンの真実」
と題してこの一澤帆布のことを毎日のように取り上げたのでした。こちら

この平成20年の年に、「中小企業経営承継円滑化法」という法律が
施行されて、中小企業の事業承継がよりスムーズに行えるように、
遺留分に関する民法の特例などが話題になっていた時なのですね。

私自身も「中小企業経営承継円滑化法って何だ?」
と思い、研修会にいろいろ出てもまったく良く分からないのですね・・・。

まあ、当時はやたら適用を難しくして、まさに
「絵に描いた餅」の制度だったのですね。(失礼?)

その研修会で講師の弁護士が例に挙げていた「一澤帆布事件」に
非常に興味を持っったので、自分なりにかなり勉強したのです。

ただ当時にその事件に対する本や論文など
情報がまったくなかったのです。
確かに裁判中ですから当事者でないから分からないはずですね。
それで連日国会図書館の資料室などにいって
一生懸命に情報収集したのです。

思い出すと、
「やはりブログを書くのは大変だ・・・」
そう思いながら取り組んだものですね。

カンブリア宮殿の一澤帆布の説明は
まさに私のブログをスタッフが読んだかのようですね・・・。
必ずこの一澤帆布が取り上げられるときに、
あの相続争いがでてきます。
「逆転勝訴」のまるで映画のようなお話ですからね。


Kabannyanosouzoku

そう言えば、私がこの「カバンの真実」のブログを当時必死に書いて
いたら、友人から
「吉田さんのブログがマネされていますよ・・・」
と言われたのが池井戸潤さんの「かばん屋の相続」


まさか、あの倍返しの天下の池井戸潤さんが私なんかのブログを
読むはずがないと思ったのですけどね・・・。

それと関西のある弁護士の事務所から、
「今度弁護士会の研修会で一澤帆布事件を取り上げるのですが
先生のネタ本はどこにあるのですか?」
と真顔で聞かれたことあるのですね。

中小企業経営承継円滑化法が10年ぶりに大改正です。
相続争いの事件としては非常に有名な事件ですから、
この事件をリメイクしてもう一度勉強し直そうと思っております。

「カバンの真実2018」
どうでしょうか・・・。

2008年12月 5日 (金)

かばんの真実 その52

この事件は遺言書の真贋で二回も最高裁で争われることになりそうで
結果的に遺言書の作成方法ということで
大変参考になる事案になりましたね。

「遺言書の書き方のすべて」
の本なんか書く時に (書いたらどうかな?と正直今思っています。
「超簡単!遺言書」なんてどうですか・・)
必ず紹介される事例になるかもしれませんね。

お話を戻すと長男の方から「第二の遺言書」が出てきた時、
三男は「この遺言書は無効だ!」という裁判を起こした訳です。

「第二の遺言書」を見ていただけると分かるのですが、
市販の便箋にボールペンで書かれたものです。
「第一の遺言書」が巻紙で毛筆で書かれたのとまったく異なります。
でも、「巻紙は有効で便箋はダメ」という法律もないですからね。

以前ある弁護士が
カレンダーの裏にかかれた遺言書で争った経験がある」と言っていました。
要するにどんな紙でもいいのでしょうね。

また同様に「毛筆は有効でボールペンはダメ」
という法律もないのですね。

また裁判の論点で非常に興味があるのは、ハンコですね。
「第一」が実印に対して「第二」が認印でした。
これも「実印は有効で認印はダメ」という法律もないのですね。

ただ今後の裁判に注目したいのですが、
最初の裁判で印鑑が「一澤」ではなく、使わない「一沢」であったので、
「おかしい」と三男は主張したのに対して、結局最高裁はそれでも有効としたのです。
でも今度の大阪高裁は「やはり一沢ではおかしい」としたみたいです。

最初の裁判で最高裁の判断は「やはりそうなのか。」と思っていたのですが、
今後どうなるのですかね・・・。

「超簡単!遺言書」
を税理士なんかが、お気軽に書いたらやはり怒られそうです・・・。残念。

2008年12月 4日 (木)

かばんの真実 その51

この遺言書の「後出しジャンケン」のお話は
大事なのでもう少しご説明しておきましょう。
民法の1023条にバッチリ定められているお話なのです。

「前の遺言が後の遺言と抵触する時は、その抵触する部分については、
後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。」

要するに、遺言の内容をいくらでもあとから書き換えられるということなのですね。

でも、この一澤家の遺言書は、やはり内容がまるっきり異なります。
第一の遺言書は三男信三郎氏を後継者とするのに対し、
第二の遺言書は長男信太郎氏を後継者としています。

これを見て
「おかしいのではないか!」
と信三郎氏が文句を言ったのも納得できます。

ただ、一澤帆布事件はどうあれ、遺言書作成の際に、
もし弁護士など専門家が作成アドバイスしていたとしたら、

「民法の規定によりあとから改定することも認められている。
ただその場合作成した私の責任もあるので、必ず連絡相談して欲しい。」
など説明するべきなのでしょう。(多分そうしたとは思います。)

そうでなければ、わざわざおカネを弁護士に支払ってまで
作成する意味がないです。
また自社株式を相続させる意味を、ご本人にもっと噛んで含んで
分かりやすく説明する必要があったのではないかとも思います。
(そう説明したとも思っています。)

また本来なら、遺言書を作成したご本人が、
「弁護士先生に遺言書の作成の面倒をかけたのだから、
今度万が一書き換える際には相談しよう。」
と思ってしかるべきお話なのです。
そういった人間関係も構築されておくべきものなのでしょう。

どうも一澤帆布事件はこのあたりが何故か欠如していたのではないかなと思います。
(これは私の個人的な勝手な意見です)

2008年12月 3日 (水)

かばんの真実 その50

平成13年3月15日に
三代目信夫氏が亡くなります。
すると長男信太郎氏は「第二の遺言書」がある旨を親族に言い出しました。

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それは平成12年3月9日付で作成されたもので、
「信夫氏保有の株式80%を長男信太郎氏に
残りの20%を四男喜久夫氏に相続させる」
という内容でした。

お分かりの通り、まったく第一の遺言書とは正反対のものですね。
しかも、いままで経営にタッチしていなかった長男に
株式の大半を相続させるという内容になっています。

さあ!遺言書が二つ出てきました!!
何となくこのあたりの、火曜サスペンス劇場(!?)のような
ドラマティックな展開になってきましたね。

・・面白がっていないで、
まずこの事例を通して真面目に学んでいただきたいことなのですが、
遺言書が二つ出てきた場合、日付があとのものが正式なものとされます。
これはぜひ知っておいて頂きたいことです。

ということは、遺言書の作成にいくらお金をかけ、例えば
公正証書にしたり、弁護士に作成を依頼し、執行人まで指定していても、
その後にまた遺言書が作成されてしまったら、
最初のものは無効になってしまうのです。

この一澤帆布事件で、まず押さえていただきたい大事な点です!




(おかげさまで、ついに「かばんの真実」50話突破!!
・・ほとんど自己満足・・)

2008年12月 2日 (火)

かばんの真実 その49

思いのほか、マスコミの報道もすぐ終わってしまいましたね。
あまり一澤帆布のお話はニュースバリューがないのでしょうか・・・。
再三申し上げている通り、これで遺言書を巡る事業承継を勉強するには
この事件は格好の題材になりましたね。
裁判所でも意見が分かれるくらいですから、
これは日本の司法の最先端!?を行く事例なのでしょうか。

やはり一澤帆布事件のことかよく分からない方も多いでしょうから、
予定通り「第一の遺言書」からご説明していきましょう。

平成9年12月12日。「第一の遺言書」が作成されます。
内容は、三代目信夫氏保有の株式(発行済株式のうち6万2000株)のうち
67%を社長(当時)の三男信三郎夫妻に、残りの33%を四男喜久夫氏に、
銀行預金のうち75%を長男信太郎氏に残り25%を四男喜久夫氏に、
自宅を四男喜久夫氏に相続させるという内容でした。

これで生前贈与した分を合わせ、結果的には信三郎夫妻に
約70%を承継させることができます。

70%というのは重要な数字です。
商法で会社の重要な事項(定款の変更・取締役の解任など)を
決定するのには、特別決議といって3分の2以上の議決権が
必要ですからね。
つまり、これで安心して社長業に邁進することができます。

なんと巻紙で毛筆で書かれていたそうです。

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弁護士に預けられていた状況からすれば、
弁護士が作成指導して、多分弁護士が遺言執行人となる予定では
なかったでしょうか。
これで万事が「メデタシ!めでたし!
となるはずでした・・・。

2008年12月 1日 (月)

かばんの真実 その48

もう!ビックリ!!の判決が出てしまいました。
このブログでいよいよ佳境のところだったのですけどね。
年末に掛けて遺言書のクライマックスにしようかと思っていたのに
ちょっと残念!ですね。
まあ私の先見の明があったということでしょうか!?

もう新聞やテレビなどで週末出てしまったので、ご存知の方が多いでしょう。
これからご説明する二つの遺言書のことで
最高裁まで争われて一応決着がついていたのです。
これが大阪高裁で遺言書はやはり偽造だとされてしまったのですね。

ブログで数ヶ月かも掛けて、この一澤帆布を取り上げていたのは、過去に
「トンでもない判決!が出てしまった!
これを教訓に事業承継は気をつけましょう!!」
とオチにしたかったのですね。

それと解任されてしまった三男信三郎氏を微力なりとも
応援しようという意図も若干あったのですが、
やはり日本の司法も捨てたもんではないようです。
まともな裁判官もいらっしゃるということでしょう。

でも最高裁まで争われて決着ついたものが、
大阪高裁でひっくり返すことができるのでしょうか。
解任された社長さんがすぐ復帰できるのでしょうか?
法律的な意味もまだまだ分かりませんし、どうなるのですかね。

でも三男を解任して社長の座に納まった長男の方は
今後一澤帆布をどうされるのでしょうか?

しかし、法律的なお話よりやはり永年のファンの方を
ぜひ大事にしていただきたいかなと思います。
そういう意味でも目が話せませんね。
"一澤帆布ウオッチャー"としても大事な研究テーマです。
これはいっそのこと「ライフワーク」にでもしましょうかね。

2008年11月28日 (金)

かばんの真実 その47

「遺言書を自ら書いたか。」
「遺言書を誰からか言われて書かせられたか。」
これは大変重要なことなのです。
遺言書が出た時の状況を想定したら、誰でも分かることでしょう。

三男信三郎氏のHPには
「父は、巻紙に毛筆で書き、実印を押した遺言書を
会社の顧問弁護士に預けていました。」
と記載しています。
つまり「父の意思」で書いたと言っているのでしょう。

一方で長男信太郎氏はある雑誌で
「平成9年に母が亡くなりました。すると信三郎はほかの兄弟に黙って、
父に遺言書を書くように強く迫るようになりました。
食事の世話などをしてもらっている負い目も感じていたのでしょう。
父は信三郎の意に沿った遺言書を書かざるを得なかったようです。」
と言っています。

もちろん本当のところは分かりません。
でも昨日書きましたように、私が顧問税理士なら遺言書を書いておくように
当然勧めたかもしれません。
遺言書は法律的な要件さえ整えれば当然有効なものです。
弁護士に預けていたということから、弁護士の指示に従った有効な遺言書で
あったことも間違いありません。
残念ながら「他の兄弟には黙って」という信太郎氏の記述が気になりますが、
当時の兄弟の仲を考えたらやむを得ない選択だったかもしれません。
でも確かに遺言書作成時に兄弟の話合いがされていれば
良かったのでしょう。

これから有名な兄弟ケンカが始まるのですが、
あとでご説明する民法の改正は、
「兄弟間で話し合って事前に自社株を生前贈与すれば特例を与えます」
というものです。
そんなうまく話合いができるものなのでしょうか。
話合いがうまくいかないから、兄弟の仲が悪いから「遺言書」が
登場するのではないでしょうか・・・。
どうもこの改正は考えれば考えるほど矛盾するようなお話なのです・・。




・・・ブログ書いていたら昨日画期的な判決が出てしまいました!
何てタイムリーなブログなのでしょう!? 詳細は来週!お楽しみに!!

2008年11月27日 (木)

かばんの真実 その46

さあ!いよいよ問題の遺言書が登場しました。

そこでその遺言書の中味を見る前に、
やはりこの遺言書が作成された経緯が非常に重要だと思うのです。
三代目信夫氏自ら、これを書いておこうとしたのでしょうか。
もちろん。このあたりの真実は当事者しか預り知らないところです。

ただ、この時点で一番遺言書を書いて欲しい方は四代目信三郎氏です。
ここでハッキリしておかなければ社長の座が確保できません。
でも、ご承知のとおり、遺言書を書く方は三代目信夫氏です。
どんな経緯で遺言書を書いたかが重要です。

税理士としての経験から、
「将来のために一筆書いておこう!」
自らの意思で遺言書を書こうとする人は稀です。
誰かが
「後々困るからお父さん書いておいて。」
と頼むケースがほとんどでしょう。
その後、ご本人ではなくその親族から、
顧問の税理士か弁護士に相談することになります。

でもここが最初のポイントです。
誰かの依頼であればなおさら、その依頼者の意図が入ってしまうものです。
だからあとで問題にもなりやすいのです。

先日ある研究会で講師の弁護士が
「税理士が関わって『書かせた』遺言書はあとで揉めることが多い。」
そういっていました。
何となくそうかなと思います。
どうしてでしょうか。
つまり、依頼者が有利な遺言書になりがちだからです。
一澤帆布の場合も、もし顧問税理士が作成に関わっていたとしたら
(ここは重要なのですが、もちろん本当のところは分かりません)
やはり、クライアントである信三郎氏の立場で作成したと思うのです。
だから先ほどの講師の弁護士の発言からも納得するかもしれません。
でもそれは当然だと思うのです。

どうしても四代目は経営権を確保したかったに違いありません。
20数年間、心血注いで発展させた一澤帆布。
どうしても社長の座はゆずれないと思っていたに違いないのです。
私がもし当時一澤帆布の顧問税理士であったとしたら、
私も当然そうアドバイスしたかもしれません
一緒にその会社と苦楽を共にしてきた顧問税理士なら
当然のことでしょう・・・。

2008年11月26日 (水)

かばんの真実 その45

相続の現場では、配偶者の方が先に亡くなると、
対策の必要性が現実味を帯びてきます。

昨日ご説明した「配偶者の税額軽減」というのは
税金計算でいかに重要なものかお分かりになっていただけたでしょうか。
もう一度「庶民感覚」を打破するために、遺産を仮に10億円としてみましょうか。
この税額軽減は、遺産の半分か1億6000万円のどちらか大きい方が
税金かからなくなるのです。
10億円の半分は5億円ですね。当然1億6000万円より大きいです。
となると、もし仮に相続が発生しても配偶者が存命なら、
配偶者に半分の5億円を相続すれば、配偶者の方は税金がかかりません。
これが、もし配偶者の方が先に亡くなってしまっていたら、
当然この特例は使えないのですから、税額が跳ね上がることになります。
以前ご説明したように相続税の税率は3億円超なら50%ですからね。
トンでもない天文学的数字になります!

一澤帆布の4代目は、実際税に相続税を試算でもしたのでしょうか。
「これは大変なことになる!」
というお話に多分なったのでしょう。(想像です)
これは税理士としての経験からも、本当によくあるお話なのです。
配偶者がご存命ならそれほど税金かからなかったはずなのに、
亡くなったトタン、急に対策が必要になる・・。
(ただこの特例は今度の税制改正で大幅に変更される予定です。
詳細はそのうち・・・)

しかも問題は相続税のお話だけではありません。
相続権は兄弟三人なら3分の1となります。
経営権の確保という重要な問題があります。
つまり、社長の座を守る必要があるのですね。
現経営者である四代目信三郎氏は専門家に当然相談でもしたのでしょう。
(ここも想像です)

ここで、その後大問題に発生する遺言書が作成されます。
お母様が亡くなった平成9年の12月12日の日付でした。
第一の遺言書」の登場!です。

2008年11月25日 (火)

かばんの真実 その44

相続税のお話で大変重要なのでこれもご説明しておきましょう。
配偶者の方が先に亡くなるとどうなるのか?」
逆に「配偶者がいると税金はどうなるのか?」

ぜひ知っていていただきたいお話です。
税金、ここでは相続税のお話なのですが
自分の配偶者への財産の移転に対しては、極端に緩和された税金となっています。

よく「夫婦で築き上げた財産」といういい方しますね。
ご主人の財産の半分はすでに奥様のもの!なので、
それを相続により移転しても税金はかからないのです。
それこそ離婚した時に「財産分与」というお話さえあります。
(離婚の税務は結構重要なので・・知りたくないですか!?
・・またそのうちブログで・・)

実は、相続税も「配偶者の税額軽減」という制度があります。

配偶者の税額軽減の詳細はこちら

ちょっと難しいお話かもしれませんが、簡単に言えば1億6000万円!まで
相続により配偶者へ財産を写しても税金はかからないのですね。
「財産が1億6000万円も財産ない!」
という方は良かったですね。
奥さんに
「お前に私の財産を無税で残してあげる準備はしている!」
と自慢しておいてください!?
「1億6000万円では少ないのでもっと下さい。」
と万が一!奥さんから言われたら
「大丈夫! 私の財産の半分はキミのものだよ。」
と安心させてください!?

この特例により
奥さんに1億6000万円以上を無税で渡すには3億2000万円以上!
の財産を築きあげる必要があるのですね。

・・相続税はやはり、なかなか「庶民感覚」では難しいお話のようですね。
やはり毎晩ホテルのバーに通って感覚を磨いておいてください・・・。

より以前の記事一覧